友の会TAD Friendship

活動報告

会報プリズムvol.73より(2013年3月28日発行)絲山秋子氏特別講演会と会員のつどい

2013/03/28

絲山秋子氏特別講演会と会員のつどい 報告

 近美友の会主催の特別講演会は、講師に芥川賞作家の絲山秋子氏を招いて、「小説家の眼、ブンガクと美術」というタイトルで、3月2日(土)に、近美1階のホールを超満員にして、近美の杉野学芸課長が聞き役、北日本新聞社文化部の寺田次長が司会進行という、豪華な顔ぶれで行われました。
 毎年、友の会の事務所では、特別講演会の講師をお願いするにあたり協議します。例年は、その年に近美で開催される特別展に関係する、著名な作家を招いて行っています。昨年度は、開館30周年の節目だったので、大原美術館の大原謙一郎氏を講師に、
『「文化の力」を考える』と題して行われました。それがご縁で、他館見学会2012は大原美術館を中心に行うことに決まりました。しかし、今年度は「黒田清輝展」「第10回世界ポスタートリエンナーレトヤマ2012」と「クライドルフの世界」だったので講師の選任には苦心しました。
 そんな折、絲山氏の著作『不愉快な本の続編』が刊行され、近美の常設展に展示してあるジャコメッティの「裸婦立像」が盗まれるという、美術館にとっては、起きてはならない奇抜なアイデアが書かれていました。富山の方言や風土も好意的に描かれており、絲山さんの富山に対する温かな思いを感じました。事務局会議では、文学の観点から美術について語っていただけたら、とても新鮮であると考え、絲山氏にぜひともお願いしたいと思いました。この依頼を絲山氏は快諾してくださり、今回の講演、そしてサイン会、会員のつどいが実現しました。
 講演で記憶に残っているのは、一日に4000字以上の文を執筆し、手作りの文章で考え、文は多く書いて、削り取って仕上げる。作家の眼は30年を一挙に語り、理解させてくれる。偶然の積み重なりを大切にして、着想のヒントにしている。太陽の位置とその地方の山・川・海の位置関係を描くことで、地域の特徴が表現できる、近美の売りはシュールである、などなど。最後に行われた質疑応答では、珍しくたくさんの質問が出されました。一つひとつに丁寧に答える絲山氏の誠実さを感じました。有意義な講演内容で、示唆に富んだ含蓄のある話に聞きほれました。

当選者に賞品を手渡す絲山秋子氏

 講演とサイン会の終わった絲山氏を囲んでの会員のつどいは、近くのイタリアンレストランを会場に、定員を上回る参加者で立食形式で行われました。雪山館長の歓迎の挨拶の後、寺田次長の乾杯の音頭で和やかに始まりました。盛り上がった講演会の熱気がそのまま運ばれているようで、おいしいワインとイタリアン料理をいただきながら、そこここで話の輪が広がっていきました。
 ゲストの絲山氏と文藝春秋「文學界」の田中編集長を囲んで、日ごろ感じている文学と美術について、小説家は、何をどう考えて作品を創造していくのか?そのヒントは何処にあるのか?などについて、矢継ぎ早に沢山の質問がなされました。気さくに、真摯に話してくれる氏を囲んで、大いに盛り上がりました。会員諸氏が、絲山氏を最も身近に感じたひとときでした。
 会が最高潮に達した頃、参加者へのプレゼントの抽選が行われました。絲山氏がくじを引くごとに歓声が湧き、レアな商品を受け取った当選者は大喜びでした。
 これまでのゲストは造形作家が多く、文学の作家をお招きしての集いは初めてのことでした。造形以上に文学や文字は身近なものと思われ、会員は絲山氏により親しみを感じたようでした。
 今後のご活躍を祈りつつ名残を惜しんで散会しましたが、外は静かな春の雪が舞っていました。
(友の会事務局長 山田 茂)