活動報告
会報プリズムvol.76より(2014年11月25日発行)他館見学会2014 群馬のアートを巡る旅
2014/11/25
群馬のアートを巡る旅 他館見学会に参加して
今回の一押し作品は?と問われれば、ハラミュージアムアークのロスコ作「赤に赤」を挙げます。理由は、我が家にピッタリと感じたから、なんて言いたいところですが、いわゆるビビビーッ!という電気的な微振動ですかね。ロスコの名前に魅せられた訳でもなく、富山にないからでもなく、しいて言えば色合いが気にいったこと。また見る場所が特別で、収蔵庫内ラックを順次引き出していく過程で、突如、眼前に現れたことが大きな要因かもしれません。今回の旅での圧巻がまさにここにありでした。分厚い扉の狭い収蔵庫内には学芸員さんが3名、付きっきりだったと思います。「そろそろ時間ですから」という合図で私は素直に退出したのですが、待てど暮らせど他の方々が出て来られず、出てきた方だけで次の展示室へと移動した次第です。皆さん、完全に収蔵庫にはまっていましたね。
次の展示室は扉を開けると薄暗く、何が?と思いつつ入りましたが、正面にはカプーア作と思われる作品が。ブラックホールのような全てを吸収してしまう感の強い特徴が雰囲気で感じられ、直感的に判る自分がすごいと自画自賛状態でした。完全に気分が高揚していたからでしょうか。こんな状態のまま庭の奥に目をやると、キャンベルスープ缶のトマトが。館内からは看板のようでもあり、近づくとスパイラル溶接を施したオブジェ(工業製品に近い)でした。ぐるっと裏に回ってビックリ、ウォーホルの直筆サインが。時間の経過でちょっと薄くなりつつありましたが、なぜか感激してしまいました。
次の群馬県立近代美術館では、屋外のブールデル作「巨きな馬」がまずお出迎え。大きいなあ!と感じながら傍に立つと、ものすごく大きい。筋肉質もさることながらデカイ、の一言。ロダンは模(かたど)りを疑われて、実物より大き目の彫刻で技を見せつけたという。弟子もこれに倣(なら)って、「大きいことはいいことだ♪」的だったのだろうか、なんてことを思ってしまいました。 館内作品は、一言では言い尽くせないので気になった作品だけ。まずは、2枚のパネルを蝶番(ちょうつがい)でつなげた福田美蘭さんの作品「道頓堀」。この蝶番、キャンバスの中央にくっきりと露出しているのです。正直、驚きました。またデカルコマニーの技法で表現された水面に映るネオンの揺らぎが微妙で、川沿いの欄干には絵の具が転写されていない細密なこだわりも感じました。かつて闊歩した道頓堀そのものでした。
この他、ゲルニカのタペストリーについても意外なものを見た感がありました。タペストリーは固定という概念がありましたが、ぶら下げてゆらゆら揺れた状態での展示。これもありかと、現物とネットのバーチャル感との違いが歴然でした。この違いを認識できただけでも、まさに、「百聞は一見に如(し)かず」でした。
初日の群馬は、曇り空でしたが、夕方には我慢しきれず雨模様に。二日目は朝から雨で、肌寒さをひしひしと感じる幕開けと相成りました。群馬県立館林美術館は広々とした公園の広場に建ち、エクステリアも来館者を楽しませる雰囲気を醸し、躍動感あふれる兎の彫刻がお出迎えです。雨の中でも、高原を想起させるさわやかさが印象的でした。建物から突き出てかつ外庭が一望できる彫刻の展示室を皮切りに、企画展のペルシアの金銀財宝を見ながら奥へと。奥まった展示室で待望の「シロクマ」に出会える設定でした。目的にたどり着いてしげしげと覗き込む。思ったより小さかったのですが、目は彫り込んであり、愛らしくもあり野獣の様相も垣間見られました。そばには二回り程小さい真っ黒な“ひぐま”が。「自然と人間の関わり」が窺い知れる作品群でした。
見上げると、ヴィアラ作品のカラフルなそら豆が垂れ下がっていたのです。色彩のイメージが全く異なっていたのと、あまりの大きさで眼前の作品が目に入らず状態でした。ヴィアラ作品の多用性に改めて気づかされた次第です。
最後は佐久市立近代美術館。お化け屋敷を連想する窓もない通路を歩く。屋外作品の一つ「さく」でした。地上40mからの冷たい空気が配管を通じて地上の造作物内部に自然流下し、通路には柔らかい風が感じられます。透けるくらい薄い大理石の天窓から採光され、アーティスティック感が漂っていました。エントランスホールには、池田満寿夫の陶壁画作品「佐久賛歌」があり、佐久という地域のアピールが随所に配されていることが印象的でした。 本物を見る機会が圧倒的に少ない私にとって、見るもの全てが心の中の歓声とときめきを与えてくれました。多くの作品を観た中で、印象に残るものが幾つもありました。紙面の関係もあって、全てを網羅する訳にはいきませんが、現物を見る楽しさとまだ知らないことが多くあることを実感できたことが今回の成果であったように思います。温泉地にあっても温泉に浸らず、美術館が優先するこんな旅も、いいですね~♪
(一般会員 村井 邦雄)